データセンターはシンガポールに グローバルなIT基盤を作る

BCP総点検の勘所 (第6回)

データセンターの設置場所として、シンガポールが注目されている。電力やネットワーク事情が良いうえに、自然災害リスクが低く、政府の支援策があることなどが理由だ。東南アジアの様々な事情を踏まえ、シンガポールにデータセンターを設置するメリットを解説する。

 BCPを考慮したとき、データセンターの設置場所として、海外も視野に入ってきた。今回は、東南アジアをはじめとする新興国の拠点として、シンガポールを紹介する。

 シンガポールは日本から近いだけでなく、自然災害リスクの低さ、電力の安定確保、通信環境の充実、人材/政府の支援が厚いといった特徴がある。シンガポールをクラウド拠点とした事例をベースに解説する。

電力、ネット、人材が充実

 東日本大震災を受けて、被災シナリオの見直しが進んでいる。その一環として、国外のデータセンターを拠点とするクラウドへ、IT基盤の移行を検討する企業が増えている。日本国外のクラウド拠点の有力候補の一つにシンガポールがある。

 シンガポールは、東京23区とほぼ同じ大きさの国土に500万人ほどの人口を抱えている。1965年の独立以来、政治・経済的に安定した社会を築き上げてきた。

 東南アジアに進出している日本企業は、その地域の業務を統括・管理するための拠点をシンガポールに設置しているところが多い。また、事業をサポートするための情報システムの集約先としても、シンガポールは有力な候補になっている。

 シンガポールが選ばれる理由として、(1)IT環境の充実、(2)自然災害リスクの低さ、(3)IT・データセンターに対する政府の支援策が挙げられる。特に最近は、電力事情や自然災害リスクが注目されている。

 IT環境の物理面では、安定した電力供給、高品質・大容量のネットワークなど、データセンター運営の生命線となる社会インフラが充実していることが特徴だ。シンガポールエネルギー市場監督庁(EMA)のデータによると、シンガポールの総発電能力はピーク時の電力需要に対して3割以上の余裕がある。また、停電時間は1件当たり20秒以下と非常に安定している。

 通信ネットワークは、東南アジア地域と東アジア、南アジア、米州をつなぐ主要海底ケーブルのハブとして機能している。2010年6月現在で15本の海底ケーブルにより56.1T(テラ)bpsのデータ通信容量で接続されている(図1)

図1●シンガポールは海底ケーブルのハブ
海底ケーブルの陸揚げポイントが多く、通信サービスが充実している。自然災害リスクが低く、データセンター設置に対する政府の後押しもある



 欧米系、日本系、地元系の主要通信事業者が接続サービスを提供しており、周辺諸国のみならず、世界主要対地に向けて高品質の接続サービスの提供実績を持つ事業者が多い。

 IT人材の層が厚いことにも注目したい。国力の格付けなどを手掛ける機関「Business Environment Risk Intelligence (BERI)」の人材指標である「Labour Force Evaluation Measure (LFEM)8」によると、比較対象50数カ国の中でシンガポールは1位にランキングされている。

 これは資源が少ないので、知的資産を国の産業の柱に据えているからだ。そのベースとなる高い教育水準を維持していることが大きい。また、国が必要とする人的資源を外国から積極的に調達する制度が整っていることから、優秀なIT人材を得やすいことも要因の一つだろう。

Nomura Research Institute (Singapore)
Business Development, Consulting, IT infrastructure担当Vice President

堀地 聡太朗
2002年に野村総合研究所に入社。
事業継続計画(BCP)全般、東南アジアの統括拠点組織に関するコンサルティングをはじめ、
事業継続サイト/データセンターサイト、クラウドコンピューティングを含めたIT基盤環境事業推進が専門。
2010年4月よりNomura Research Institute (Singapore)に出向。
(著者プロフィールは執筆時のものです)

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