地震対応計画を見直し 東日本大震災で検証

BCP総点検の勘所 (第3回)

野村総合研究所では2010年秋に「地震対応計画」の見直しを行った。災害時の交通規制などを踏まえ、より実効性のある計画へ改善することが目的だった。今回の大震災と計画を照らし合わせると、想定内だったことがある半面、想定外だったことも数多い。計画の改善を継続することが大切だ。

 筆者は、データセンター部門のITサービスマネジャーである。今回は、データセンターの危機管理計画を策定するポイントを、東日本大震災の影響を踏まえて説明する。計画で想定していたことと、震災で実際に起きたことを比較しながら、より実践的な計画を探っていこう。


2010年秋に計画を見直し

 実は、野村総合研究所では今回の震災とは関係なく、事前に「地震対応計画」を見直していた。

 データセンターの地震対応計画の見直しに着手したのは2010年秋のことだ。きっかけは、本社が策定した危機管理計画のマスタープランに合わせて見直しを進めたことにある。データセンターの業務は事業継続の重要課題だったので、他の事業本部に先駆けてデータセンターの地震対応計画が見直された。見直しのポイントは、単に整った計画にすることではなく、より実効性のある計画にすることにあった。今回発生した震災については、ここで見直した地震対応が有効だった。

 データセンターの地震対応計画は従来から策定していたし、被災時の訓練やシステムも配備されていた。しかし、危機管理計画を見直した結果、(1)要員の選定基準、(2)災害シナリオ、(3)危機発動のトリガーという、三つの問題点が洗い出された。

 まず、要員の選定基準の問題である。従来は、組織の部長やマネジャーを中心に危機管理を行うという仕組みを採用していた。ところが再検討を行うなかで、震災時は交通規制を考慮する必要があると分かった。例えば東京都の計画では、多摩川、国道246号、環状7号線を結ぶ内側の区域は全面的に車両通行禁止になるなど、災害時は移動手段に大きな制約がある(図1)

図1●震災時の交通規制を考慮して要員を選定
警視庁ホームページで示されている、大震災発生直後の「第一次交通規制」の範囲


 また夜間に大地震に遭遇したとき、千葉県に住んでいるマネジャーが、交通機関がストップしている状態で、神奈川県横浜市のデータセンターにたどり着けるのかという危惧もある。そのため、組織で対応できる昼間の震災対応とは別に、夜間や土日祝日向けの対応を用意した。具体的には、データセンターの周囲20kmを徒歩圏と定義し、組織の職制によらない要員の選定を行った。交通機関が動いていない時間帯や、機能が停止していたとしても、要員が徒歩でセンターへ駆け付けることができるように見直したのだ。

野村総合研究所 システムマネジメント事業本部
運用事業推進室 上級システムエンジニア

五十嵐 智生
2008年より野村総合研究所データセンター部門の
組織改革プロジェクトに携わり、ITSMSによる制度設計などを推進。
専門は、組織改革とマネジメントシステムの設計、構築、運営、運用コンサルテーション。
(著者プロフィールは執筆時のものです)

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