ネットワークは共用が前提 処理能力の拡張策を使い分け

クラウド時代の「運用の常識」(第9回)

仮想化技術を利用したプライベートクラウドでは、従来とは異なるネットワーク運用の課題がある。多くのサブシステムや仮想マシンがネットワークを共用することにより、トラフィックの大幅な増加が見込まれるからだ。LANとWANに分けて、設計や運用の考慮点を説明する。

 仮想化技術の浸透や、クラウドコンピューティングの普及に伴い、企業システムを支えるネットワークの考慮点も変わってきた。今回は、プライベートクラウドにおけるLAN、およびシンクライアントのWANについて、考慮すべきポイントを説明する。

LANのスケーラビリティーを確保

 部門やグループ会社を対象としたプライベートクラウドを構築する企業が増えている。仮想化技術を使い複数のサブシステムの基盤を統合し、ITリソースを有効活用することが狙いだ。

 プライベートクラウドを支えるLANの考慮点としては、(1)スケーラビリティーの確保、(2)トラフィック管理、(3)監視運用、の三つが挙げられる。以下で順番に見ていこう。

 まずは、LANのスケーラビリティーの確保だ。

 プライベートクラウドの構築は段階的に進めることが多い。いきなり全システムを移行できる規模のリソースを用意するのではなく、数台~数十台の物理サーバーでスタートし、順次増やしていく。そのため、プライベートクラウドのLANには、小規模でスタートできること、その後のシステム拡張に応じられることの2点が必要だ。

 仮想化基盤の中心を担うサーバーに関しては、仮想化ソフトが提供する機能により、シンプルに拡張することが可能だ。これに対して、ネットワークの拡張については、キャパシティーやパフォーマンスの観点から、以下の三つのポイントが挙げられる。

 一つめは、物理サーバーやストレージの追加に伴い増強が必要となる「LANポートの数」である。

二つめは「LANインタフェースの速度」だ。従来は1台のサーバーで利用していたLANインタフェースを、仮想化基盤では複数の仮想マシンで利用することになるため、トラフィック量の大幅な増加が見込まれる。

 三つめは「トラフィック増に対する処理能力」である。プライベートクラウドに移行するサブシステムが増加することに加えて、サブシステムの利用増に伴いトラフィック量も増える。トラフィックのなかでも、OSI参照モデルの上位レイヤーに位置するサーバーロードバランサーやファイアウォール、IDS(侵入検知システム)/IPS(侵入防止システム)に関するものには注意したい。

 ネットワークの処理能力を拡張する手法には大きく、処理する機器を並列に追加していくスケールアウトと、より処理能力の高い機器に置き換えるスケールアップがある(図1)

図1●ネットワークキャパシティーの拡張方式

野村総合研究所 基盤サービス事業本部
クラウド推進部

田島 直樹
企業システムやASPサービスにおけるネットワーク(LAN/WAN)の設計や構築、維持管理を担当。
(著者プロフィールは執筆時のものです)

お問い合わせ

株式会社 野村総合研究所
マルチクラウドインテグレーション事業本部
E-mail:sysm-info@nri.co.jp

ページのトップへ