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共用のシステム基盤で効率化 自動プロビジョニングを進める
クラウド時代の「運用の常識」(第6回)
システム基盤には今、ビジネス変化への迅速な対応や、コスト削減が求められている。要求に応えるには、共用のシステム基盤を作る必要がある。標準化や仮想化、自動化を推し進めたシステム基盤とはどういったものか。構築事例を基に、コンピューティングリソースをうまく運用管理するコツを解説する。
システム基盤の共用が効果的
変化への迅速な対応や、コスト削減を実現するには、独自のシステム基盤を構築せずに、共用システム基盤を利用するようにすべきである。昨今では、そうした目的のために、自社やグループ内にコンピューティングリソースを提供する、プライベートクラウドを構築する例が増えてきた。
従来のように個々の要望に応じてシステムを構築していては、独自のシステム基盤の要求に対して多くの負担が強いられる。また、システムが増えるたびに運用管理のための人的資源が必要になってしまう。
共用システム基盤は、多くのシステムが利用することになるので、利用者の様々な要求事項を考慮したうえで構築すべきである。プライベートクラウドのような特定の利用者を想定している環境では、利用者のニーズを分析することが可能である。利用者のニーズを分析し、提供するシステム基盤の種類を最少にすることで、標準化を実現し、変化への迅速な対応やコスト削減が実現できるようになる。
私たちは共用システム基盤を構築するに当たり、利用が見込まれるシステムについてリソースの要求事項を分析した。その結果、利用が見込まれるシステムは、すべて仮想サーバーとして稼働可能であることが分かった。また、CPUリソースをそれほど必要としないことや、OS上のリソース活用に制限があることなどから、仮想サーバ ーに割り当てるCPU/メモリーの組み合わせを2パターンに限定できると判断した。それは、CPU1コア/メモリー2Gバイト、およびCPU2コア/メモリー4Gバイトの二つである。現在、約30システムが共用システム基盤上の仮想サーバーで動いているが、いずれも問題なく稼働している。
提供するシステム基盤の種類を最少に抑えることにより、運用管理作業を自動化することが容易になる。個別にシステム基盤を構築する場合と比較すると、システム基盤の設計、構築、維持管理など、システム基盤の運用管理のための工数を大幅に削減することができた。また。標準化を進めたことで、様々なシステム基盤構成を管理する必要がなくなり、構成情報の管理も容易になるという効果を得られた。
I/O仮想化で構成変更を容易に
共用システム基盤を設計・構築するに当たっては、仮想化技術を取り入れ、運用コストの削減と品質向上を目指した。ここでのポイントは、サーバーとストレージの仮想化に加えて、I/Oの仮想化も実施したことだ。
サーバーには、ネットワークやストレージのケーブルが接続されている。
サービスの継続性の観点から、システムの冗長化が当然のこととなっている現在では、電源接続やネットワーク接続、ストレージ接続の冗長化を実現するだけで、従来の2倍のケーブル本数が必要になる。
その上、最近ではサーバーを仮想化して用いることにより、1台の物理サーバー上に複数の仮想サーバーを構築することが可能になった。その結果、1物理サーバー当たりのケーブル数がさらに多くなり、ネットワークやストレージ用のアダプターカード、ケーブル本体のコスト、ケーブル配線にかかわるコストといった、運用コストを押し上げる要因となっている。
共用システム基盤では、こうした問題を解決するためにI/O仮想化技術を採用した。I/O仮想化では、まず物理サーバーから出ているI/O接続(ネットワーク接続、ストレージ接続)を広帯域のI/O接続に統合する。統合されたI/O接続は、I/Oコントローラーに集められ管理される。I/Oコントローラーでは接続関係を仮想化しておき、管理ソフトを使って必要に応じてネットワーク接続やストレージ接続をシステム基盤に割り当てる(図2)。

サーバーに対してネットワーク接続やストレージ接続を追加したい場合は、I/Oコントローラーの管理ソフトから仮想的なネットワーク接続やストレージ接続を追加すればよい。サーバー廃止時のI/O構成の変更についても、管理ソフトから一元的に実施できる。I/O仮想化技術の導入により、物理的な配線作業の一切をなくすことが可能となった。
迅速かつ柔軟にサーバーの構成変更を実現するために、I/O仮想化は不可欠な技術と認識している。システム基盤の増強や廃止の依頼を受けるたびに物理的な配線を変更していては、時間やコスト、作業リスクがコントロールできない。I/O仮想化環境では、物理的な機器の構成変更時にもシンプルな運用管理が実現できる。I/O仮想化により、各物理サーバーに対するケーブル接続は、管理ソフト上では設定し直すだけで増強や交換が完了する。
もう一つ、システム基盤の提供者の立場から言えば、物理的な配線作業がなくなることにより、サーバーのプロビジョニング(準備・提供)作業を自動化できるというメリットが大きい。自動プロビジョニング機能により、運用コスト削減と設定ミスなどのリスク低減が可能になるのだ。
野村総合研究所 システムマネジメント事業本部
運用マネジメント部 上級テクニカルエンジニア
村上 知弘
入社後すぐにデータセンターのハウジングサービス提供、仮想化基盤の規格・設計・構築に携わる。
現在は、運用業務をシステム化し、品質の向上や、効率化など、運用の高度化に取り組んでいる。
(著者プロフィールは執筆時のものです)